【本】中島みどり / 白蓮華のように ―あなたに会えてよかった― (2)
没後知ったのですが、自分の母も大腸癌で入院していたとき日記を書いていました。それを読んだときの記憶がよみがえり、切なくなりました。
当時は仕事の関係で富山県にいて、実家の東京へは月1回しか帰れませんでした。その帰りを待ちわびていること、検査が辛かったこと、痛みがだんだん強くなってきていることなどが日記には克明に書かれていて、それまでの不孝を懺悔せずにおれませんでした。
中学高校時代は親を疎ましく思い、大学卒業後は両親の反対を押し切り、家を飛び出るようにして北陸の某団体へ入り、家へはほとんど帰りませんでした。口だけは達者で憎たらしいことを平気で言う母を、どれだけ罵ってきたことか。
そんな母が、ステージIVの進行癌だと分かり、少しずつ衰弱してゆく姿をみて、何とか支えになれれば、と思うものの、思い知らされるのは無力感だけでした。
唯一救いになったのは、それまで聞いてきた親鸞聖人のお言葉を伝えることが出来たことだと思います。
若不生者のちかいゆえ 信楽まことにときいたり
一念慶喜するひとは 往生かならずさだまりぬ(親鸞聖人・浄土和讃)
治る見込みが少なく、いつ死がきてもおかしくない状態の中で、「かならず往生することがある」と話をしました。
その願いが届いたのか、中島みどりさんと似たような事を書いていたのに、不思議な因縁を感じずにはおれません。
午後から癌に効く健康食品を紹介したいという人が来て、"題目"をとなえなさいと言って帰っていった。私は何だったんだろうって思ってしまった。たしかに今の私にとって、わらにもすがりたい気持ちに変わりはない。本当に私を元気にしてくれるものがあるのなら今すぐでもやりたい。しかし、現実はそう簡単にはいかないことは百も承知している。病気は自分が作ったのだから、やはり自分が治さないといけない! 自然との調和、リズムが乱れていたのだと思う。大自然にいだかれながらも、感謝することもなく毎日をあたり前のように思っていた気がする。いつも守られているのに、そうとは気づかず自分勝手な行動ばかりとって。
(37ページより)
私は今まで何とおろかなことばかりを思い、書きつづってきたのかと、はずかしいかぎりです。しかし、その気持ちはまったく本音で、どうしようもない気持ちだったのです。人間という生き物は本当にどうしようもない生き物だと思います。私は正直いって今、自分の病気に対して不安です。少しでも良くなり子どもたちのところへ帰れるのか、ということが……。でも、私の体、命に対しては誰にもわかるはずのないこと。まして、私ひとりが生きているのではなく、すべての物、人のおかげで生かされてあるのだと知れば、今日一日のありがたさを知らされました。
そして、私自身がいかにばかで善人ぶった人間であったか。助かりたい、助けてほしいと思う気持ちばかりで……。今回こうして病気になってみて自分をみつめてみると、助けようにも助けることができない自分であったことにはじめて気づかされました。本当にありがたいことです。こんな私にも、阿弥陀様はいつも呼んで下さっていたのだな、なんとか気づいてくれ、はやく気づいてくれ、こちらを向いてくれ、正直に信じてくれ、何も心配することはない、その身そのままでよいと呼びつづけて下さっていたのだなと思うと何ともったいないことか。なもあみだぶつ、なもあみだぶつ、なもあみだぶつ、なもあみだぶつ。(39ページより)
「今まで思うようになることだけが幸福だと考えてきた。今度、思うようにならないことの方が人生にとって、もっと大事なことなんだということを知った」。
「自己を語るということは自慢であるか、愚痴であることが多い。語らずとも、後姿が常にあるがままの私自身を語っているのだということをおそれる人間でありたいものです」。(43ページより)
今日もお昼に主人が来てくれた。本当に毎日大変なのに申し訳ない。私は毎日会えてとってもうれしいのだけど! 今まで毎日会えることの幸せを感じることもなく過ごしていたことが、なんと不幸でもったいないことをしたことかと思います。こうして病気になって、はじめて知らされることが多すぎてとまどいぎみです。でも、少しでも人の痛みのわかる人間、それに気づかされたことはありがたい。私ぐらい幸せ者はなかったのだなとつくづく今は思います。春好さん、今度会うところはお浄土だね。夏美、洋生も道迷わないように帰ってほしい。お父さんもお母さんも、そしたら今度は皆で仲良くできるわね! 私の最愛の主人、心から愛せた人、そんなあなたに会えて幸せ!
(46ページより)
今日は子どもたちがキャンプに行く日ですね。予定通り晴れたし、とってもよい一日になるでしょうね。私もそんな楽しい日が来るのかな? あまりそんな夢のようなことは考えない方が良いのでしょうね。私の人生これから誰のために何ができて、何を生きがいに生きてゆけば良いのでしょう? 私にはもう何も残されていないのでしょうか。もう不必要な人間になってしまったのでしょうか。主人にも迷惑や負担ばかりかけてしまうし、そのうち子どもたちにとっても負担に思うときがくるのでしょうね。私の病気が主人の人生までも変えてしまうようで!
私は春好さんのこと、ぜんぜん幸せにしてあげられないの。私はあの人にとって何だったんだろう。ただ苦労をかけるだけの妻なのだろうか、私にしかできないことって本当にあるの? 今の私にはわからない。自分がどうしたいのか、どの方向に進んでいっているのか。元のように元気になりたい。その気持ちは充分にある。でも、それはもう不可能に近いこと。たとえ良くなっても決して無理のできるからだではないし、春好さんの妻として役目をはたせるのだろうか。結婚生活がこのままできるのだろうか? 主人が私のことを負担に思うときがきたら、そのときが終わりかもね。悲しいことだけど私には何もいえる資格はないし、黙ってそれにしたがうしかないと思っている。たとえ、そんなことになっても、私はこの世で愛せる人は春好さんひとりだけです。あなたがこの世で一番好き! 一番愛してる。
今日も一日終わろうとしている。私にとって今日一日はとてもよい一日だった。子どもたちや主人にとってはどうだったかな? デイキャンプは楽しかっただろうか? きっと疲れたでしょうね。明日からまた一週間がスタートするしね!今日も一日生かされありがとうございました。(49ページより)
自分の力ではどうしても見ることができないもの、それが「自分の後姿」です。
よくよく考えてみますと、前はどんなに美しく飾ることも写すことも、また見せかけることもできるのですが、後ろは「すきだらけ」なのではないでしょうか。
私達にとって、もっとも大事なものは「中身」ではないでしょうか。どんなに美しい化粧も泣けばはげてしまう。本当の輝きは内面から香るものでなければならない。かっこいいだけではどうにもならないのが人生。どんなに健康体でも、心がゆがんでいたのではどうしようもありません。
今日も一日が無事に終わった。私も皆様のおかげにより生かされた。本当にありがたいことと思います。主人も昼には来てくれたし、毎日本当わるいな~と思う。でも、私はうれしいし、来てほしいのよね。本当、自分勝手よね!(51ページより)
もう体はくたくた、はっきりいって自信がない。最近ではもうこのまま楽にしてほしいとさえ思うこともある。私っていくじがないのかな。周りの者ががんばっているのに自分だけずるい考えかな~。子どもたちには申し訳ないけど。春好さん、あなたなら、どうする、あなたならどんなふうに考える。きっと、がんばると答えるよね! 私、あなたといるとき、このまま時が止まればいいのにと思う。そうしたらずっと一緒にいられるのにと。なんだか人生ってせつないなあって思う。どんなに大切でいとしい人とも別れていかなくてはいけない世界よね。どんな人にも必ずやってくるのですね。それもある日突然に! 私もいつかきっとやってくる。だからあなたと会える一日一日がとっても大切だと思えるの! これからは子どもたちとも、できるだけ会いた~い。少しでも思い出を作っていってやりたい! こんな母でも残していってやりたい。
(53ページより)
今はとても不安で一杯です。私としても、完治するとはとても思えませんが、でも少しでも長く生きていたい。これから私の身体の状態がどのように変化していくのかと思うと、不安と心配が交互するのですが、これも現実、私自身受け止めていかなくてはと思っています。でも、子どもたちにはあまり苦しい姿は見せたくないなと思うけど、一日を楽しく精一杯生きていくしかないんですね。家族4人ですごせる時間がもっとほしいね。
子どもたちにもう少し思い出をたくさん残してやれたらと思うね。今となってはもう遅いかな?
春好さんとの思い出、何があるかな~? 結婚して一番楽しかったこと……! やっぱり新婚旅行かな。はじめて旅行らしい旅行をしてすご~く自由を味わえた気がした。とっても楽しかったね。二人だけでぜひ行きたいね!(54ページより)
これから先、どんな治療がまっているのかと思うと不安! でも、周りの皆もがんばってくれているし、子どもたちのためにも私が弱音をはくわけにはいかない。
とにかく私ひとりではない。仏様といっしょにがんばる。"なもあみだぶつ"の仏様がついていて下さる。だから、しんぱいはいらない。なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ。
なつみも、ひろきも仏の子
みんな、みんな仏の子
かならず手をあわせる子になって
なもあみだぶつのおいわれ聞いて
かならず浄土で会いましょう。
この世の人生あっという間
気づいたときは、もうあの世
しんぱいいらない人生を
今から気づいてほしいもの
なもあみだぶつの舟にのり、
この世のあら波のりこえて
かならず浄土に帰ってきてね。(55ページより)
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